食のコラム6

American Shad

春の味覚 “シャッド”

 ウイキョウや水仙の花が咲きはじめ、マーケットの店先に美しいアスパラカスが出回るころ、グルメ魚の王様と言われるシャドが産卵のためハドソン河に登ってきます。  春の喜びを告げるロビンがセントラルパークでさえずり始めるころから、はなみずきの花が散る頃までシャッドの旬は続きます。
 シャッドはニシンの家族で、サーモンと同じく淡水で育ち、海で5〜6年で成長すると生まれた川に戻ってきます。産卵が終わると生命を終えるサーモンとは違って12年ぐらい生きるといわれています。
ニシンの2〜3倍の大きさで、特に赤い色の卵は美食家たちの賛辞を集める魚です。
ラテン語(Alosa Sopidissima) では最も美味しい魚という意味だそうです。

 或る日、針をまとっていることを嘆いていたハリネズミのところに神様が現れ、針を中側にひっくり返し、河に投げ込みました。その生まれ変わりがシャッドだというインディアンの伝説通り、ニシンのような細い骨が1匹に1,500本もあるといわれ、骨をとりフイレにして売られますが、毛髪のように細い骨は肉の中まで入り込んでいます。
 マヒカン インディアンやオランダの殖民者たちが住むころは手でも捕まえられるほどの大群が押し寄せたといいます。ハドソン河を発見した当時は飲料水に最適な、限りなく青い透明な水だったそうです。19世紀の初めまで、シャッドは魚師たちの主な産業だったほど大量に獲れ、昔は奴隷の食べ物か肥料になった程でした。
 大量に獲れたシャッドは独立戦争の飢えを救い、ワシントン大統領はシャッド通として知られています。ポトマック河の、川辺にシャッド小屋を立てシャッド釣りを楽しみました。

マンハッタン、ウエストサイドのハドソン河   
 ハドソン河ばかりでなく、コネチカット河、デラウエア河、ポトマック河など東部の主な川に産卵に戻ります。魚師たちが集まった小屋が今、シャッド美術館になっているところがあります。美術館ばかりでなく、ローカルの経済や商業を活性化するため、又自然環境保護意識促進のため、行政ぐるみで取り組んでいます。シャッドメニューのあるローカルレストランのプロモーション、キャンペーンとして、シャッド釣りコンテスト、シャッド祭りなどが開催されています。



CIA(Cilinary Institute of America)の人たちがチャコールでシャッドを焼いている
グルメソサエティの人たちがシャッドの卵を料理している


シャッドフェスティバルにて、ローカルの人たち
アメリカ人はシャッドをどのようにして食べるのでしょうか。
 コロニアル時代には細い骨が柔らかくなるまで何時間も煮込んだといわれています。
昔からの典型的食べ方は塩を振り、ベーコンでくるみ、硬い板に釘で張り付け、炎の上がらない熱い火に斜めに立てて焼き上げたキャンプファイヤー式食べ方です。数の子より大きい赤い卵は焼いてレモンをかけ、ソレルと茹でたジャガイモを添えて食べます。
 背開きにしたフイレに塩、胡椒して焼き、溶かしたバターをかけて食べたのは同じくシャッド好き、グルメのトーマス ジェファソンのメニューです。

 ニューヨ ークのフォーシーズン レストランではシャッドフイレをパリッと焼き、その上にソテーしたシャッドの卵をのせ春の野菜をあしらったメニュー。
 トライベッカのボーレイ レストランでは赤ワインソースでソテーしたシャッドに、ランプ(ガーリックとねぎの強い香りの野草)で包み焼きしたシャッド卵を添えたメニュー。
 シャントレールでは赤ワインソースでベイク、シッタレーラではローストしたシャッドにカツオだしのオニオン ソース野菜添えなどです。
 日本人にはレモンを振りかけた塩焼きがベストでないでしょうか。ぜひ食べて頂きたい春の女王様の味です。酢漬けシャッドは酢で骨が柔らかくなり、前菜、酒の友に最高でしょう。


料理まえの生のフイレと卵
シャッドのフイレと卵をフライパンで焼いただけ。アスパラとアンディーブ添え。

 19世紀に人気のあった“ハドソンの女王“ といわれたシャッドも、大量に獲りすぎて少なくなったこと、PCBのことで手をつけたがらない人たちもいます。現在は河川が保護され、きれいな河に戻ってきています。特にシャッドは産卵まで食べずにまっしぐら上流に上り、汚染の心配はないそうです。
1990年にはハドソン河で380.000ポンド獲れています。

 美味探求、幻の食べ物を試食するために旅行する人が多い昨今ですが、アメリカのシャッドを食べていない人が多いようです。
 ニューヨーカーでさえグルメ王様シャッドを食べたことのない人が意外と多いのです。フイレを買っても肉の中に小骨が多く、手で骨を引っ張らないと骨が長くて取れないこと、口の中から骨を出すのは、無作法?というより、口の中で骨を選び出すような器用なことができないのです。
 「日本では美味しいご飯を炊くコツは”赤子なくとも蓋とるな“といいます」というと、大抵のアメリカ人は”それはひどい!“と叫びます。
 そんなことしてまでして食べたくない、美味しければ骨抜きぐらいなんのその!というアメリカ人は少ないのです。卵は魚臭いという食べず嫌いも多く、加えて季節が短く、メニューを変えなければならないこともあって、何処のレストランでもあるわけでない欠点があります。
 一般になじみのない、面倒な食品に飛びつく人が少ないこと。自然環境も変化し、ファーストフードが人々の味覚を変えていることなど、グルメ・ジェファーソンを嘆かせる理由がたくさんあるアメリカです。

シャッドフイレ・・・チッタレーラにて。ほとんどのシャッドは骨抜きフイレにして売っています
チャイナタウンで売っているシャッドは骨付のまま。1ポンド、1ドルと安い

参考:シャッドについての参考サイト
http://www.nyseafood.org/about/shad.asp
http://www.bio.umass.edu/biology/conn.river/shad.html

小林恵 ニューヨークジャーナル ライフスタイル クリエイティブ 日米草の根文化協会 読者のご意見箱